モンスターズクラブ。
2012年。
日本映画です。
【青い春】【空中庭園】【ナインソウルズ】が代表作の豊田利晃監督作。
豊田監督は音楽好きで、自身の作品にロック音楽や作中限定のバンドを結成したり、
実際に登場人物にバンドマンを起用させることが多いので有名ですね。
そして、映像も音楽もラギットでかっこいい。
好きな監督です。
※あらすじ
【雪が降り積もった原野に囲まれた山奥。そんな社会と完全に隔絶された場所に一人で暮らし、黙々と爆弾を作ってはさまざまな場所に送りつけている垣内良一(瑛太)。日本の社会システムを粉砕しようともくろむ彼は、そのために作ってきた爆弾の最後の一個を総理大臣に送りつけようと決意する。だが、その夜に自殺したはずの兄(窪塚洋介)が彼の前に現れる。困惑する良一だが、思いもよらぬ兄の出現によって、自身の運命に大きくかかわる家族の意外な秘密を知ることになる。】引用YAHOO!映画
18年間にも渡り、アメリカの主要企業に爆弾を送り続けたユナボマーに着想を得た
豊田利晃監督の作品。
冒頭では、大切な家族を失った主人公が、
人生に絶望し、孤独に社会を恨むことでしか日々を生きられない様を描いていて、
人は大切なものを失ったときにどういう姿であるべきか?
を、問うているようなストーリーに感じられます。
作中の山の雪景色と渋谷のスクランブル交差点の映像の描き方は
まるで主人公の孤独を写し取ってるかのよう。
ですが、最後に主人公が生きる答えを見つけたかのような、心揺れる光を感じさせるかのようなラストシーンの描き方が非常に美しく、印象的です。
渋谷スクランブル交差点で主人公がひとり、宮沢賢治の『告別』を心の中で唱えるシーン。
告別
【おまえのバスの三連音が
どんなぐあいに鳴っていたかを
おそらくおまえはわかっていまい
その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のようにふるわせた
もしもおまえがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由にいつでも使えるならば
おまえは辛くてそしてかヾやく天の仕事もするだろう
泰西(たいせい)著名の楽人たちが
幼齢弦(ようれいげん)や鍵器(けんき)をとって
すでに一家をなしたがように
おまえはそのころ
この国にある皮革の鼓器(こき)と
竹でつくった管とをとった
けれどもいまごろちょうどおまえの年ごろで
おまえの素質と力をもっているものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだろう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあいだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけずられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や材というものは
ひとにとゞまるものでない
(ひとさえひとにとゞまらぬ)
云わなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけわしいみちをあるくだろう
そのあとでおまえのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまえをもうもう見ない
どんなぐあいに鳴っていたかを
おそらくおまえはわかっていまい
その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のようにふるわせた
もしもおまえがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由にいつでも使えるならば
おまえは辛くてそしてかヾやく天の仕事もするだろう
泰西(たいせい)著名の楽人たちが
幼齢弦(ようれいげん)や鍵器(けんき)をとって
すでに一家をなしたがように
おまえはそのころ
この国にある皮革の鼓器(こき)と
竹でつくった管とをとった
けれどもいまごろちょうどおまえの年ごろで
おまえの素質と力をもっているものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだろう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあいだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけずられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や材というものは
ひとにとゞまるものでない
(ひとさえひとにとゞまらぬ)
云わなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけわしいみちをあるくだろう
そのあとでおまえのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまえをもうもう見ない
なぜならおれは
すこしぐらいの仕事ができて
そいつに腰をかけてるような
そんな多数をいちばんいやにおもうのだ
もしもおまえが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもうようになるそのとき
おまえに無数の影と光りの像があらわれる
おまえはそれを音にするのだ
みんなが町で暮したり
一日あそんでいるときに
おまえはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまえは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌うのだ
もし楽器がなかったら
いゝかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光りでできたパイプオルガンを弾くがいゝ】
引用:宮沢賢治 「告別」
宮沢賢治が教諭時代に自身が学校を去る際に
絶対音感をもつ農民の貧しい生徒に贈った詩なのだとか。
当時、家柄や貧しさで才能があっても夢を叶えることが許されなかった子供が多かった時代。
宮沢賢治は敢えて厳しく生徒にこの詩を贈った。
このエピソードは、宮沢賢治が
詩人でもありながら生徒に愛を持った教諭でもあることが伺えます。
個人的に、現代にも響く、
いや現代でこそ必要に響く詩だと感じます。
この詩をラストシーンに持ってくる辺り、もはやモンスターズクラブという映画は現代の人に向けたメタファーなのではないのでしょうか?
俳優陣の演技もアッパレですね。
最近、響く日本映画が増えてきて、映画好きな私としては非常に嬉しい。
また、この詩を自身の作品に起用した豊田監督にアッパレ。
是非。